結婚
妄想であったとしても なんだか気味が悪い 私が思っているような頭の悪いずるい人間ではなく もしかしたら完全犯罪だって成し遂げられる 頭のいい人間だったとしても あまりに正体がわからなさ過ぎて 一緒の部屋で今までと同じように暮らしていくことはできない 今まで馬鹿にしていた夫が恐ろしい 私はその足で友... 続きをみる
それに、公安が私をつけているのならば 当然、優雅にも四六時中見張りが付いているはずで もし、優雅がこの一連の殺人を起こしているのならば 絶対、現行犯で捕まるだろう そんな風に話すと与那嶺さんは 「公安は国家の安全のためなら その辺の殺人犯は野放しにするかもしれないわ その辺の殺人犯が五、六人を殺し... 続きをみる
「え!私に?」 驚いている私をよそに与那嶺さんは 落ち着いた様子で 「ええ、たぶん、40くらいに そうね、私に言わせればいかにも公安ですって感じの 女の人だわ 多分、普通の人にはわからないでしょうけれど 私には何となくね・・・ 私についている人も一人じゃなくって 何人も変わっていくけれど わかっち... 続きをみる
「私は今でも見張られているの」 「見張られている?」 「そう、赤軍派の男の女として」 「え?!誰に?」 「公安よ!」 私は全く驚いた 公安なんて小説かドラマの中のことで 実際に日本の警察組織の中に 本当にあるのかも知らなかった それに、もう、20年は与那嶺さんの周りに現れていないのだ 「今でも?」... 続きをみる
「勇気はなかったけれど 公安に十分目をつけられていたの それに、一度道をそれてしまうと 彼は学問には興味を失っていたし 就職は無理だし 親族はそろって結婚には反対するし 彼の家のほうは息子が赤軍派だったってだけで 工場は倒産して一家離散 そういう時代でもあったんだけど ああ、そうかもしれない 『総... 続きをみる
「最初に彼を親に合わせた時に すごく喜ばれたわ 彼は東京大学の理工学部の学生だったし 親は小さいながらも中小企業の社長 さわやかでお坊ちゃんで 私も知り合ったきっかけは 喫茶店で流れていたテンペストだったし 趣味も同じで見た目もさわやかで絶対に二、三年付き合ったら 結婚すべき人だと思っていたし そ... 続きをみる
与那嶺さんは全く違う話を始めた 「私ね最初から一生独身でいようって思ってたわけではないの 今から20年くらい前まで 付き合ってる人がいたのよ」 20年前と言えば与那嶺さんが60くらい? 今の私くらいだろうか 「29歳の時に知り合って 59歳で彼が死ぬまで恋人同士だったの」 「結婚はしなかったんです... 続きをみる
与那嶺さんは濃いミルクティーを淹れてくれた それで、私は少し冷静になれた 「こういうことを言いたかったんですね」 与那嶺さんは甘いチョコレートスフレを私に勧めながら 「これ、ブランデーが入ってるし 十分甘いいのよ ショッキングなことが起きた時は お酒か甘いものがいいの もう少し落ち着くまで待ってる... 続きをみる
もう、仕事に行くどころじゃなかった 体が震えてこのままでは立ってることすらおぼつかない さっきの若い男が 「おばさん大丈夫かよ! どっか具合悪いんじゃねぇの いきなり線路に飛び出そうとするんだもん 俺、行くよ! 病院、行きなよ」 親切ないい子だったのだが 私はお礼も言えなかった あれは夫だった 背... 続きをみる
私は大概の人間のことは知りたい 好奇心旺盛でそれが全く利害関係のない人でも 過去は知っておきたい ただ、夫だけは違う それはどうでもいいと言うのとも違う ただただ、苦々しい 自分の大きな人生の失敗を目の前に突き付けられるように 苦しみだけが残りそうで 彼の過去なんか本当に知りたくない 与那嶺さんの... 続きをみる
もちろん、彼の実家に遊びに行けば 彼の兄弟や義母と話はするが 通り一遍、天気の話がせいぜいで 詳しく彼の生い立ちを聞いたこともなければ いったいどんな人なのかも知らないままだった それでも、私はよかったし 何も思うことはなかった 彼のいいところは子育てに全く口を挟まなかったことだ その頃の私は、そ... 続きをみる
恋が冷めてしまえば 夫になど全く興味がなかった 翔が新しい父親になじむよう 悲しい思いをしないように 新しい環境で、勉強がスムーズにでき 友人と楽しく過ごせるよう そのことに全力を注いでいた すぐに朱雀と環奈が生まれた 専業主婦を望んだわけではないが 翔の教育と10歳下に生まれた年子の朱雀と環奈で... 続きをみる
それは間違いないと言う 彼女が言うのならそうなんだろうけれど それなら、いったい誰が犯人だと言うの? 黙ってしまった私に、与那嶺さんは 「答えは明白だと思うけれど」 「え!?」 「あなた、ご主人の過去を知ってるのかしら?」 少し冷たい声でそう言われた 優雅の過去! いや、まったく知らない 結婚する... 続きをみる
驚いた! その優雅がわからないと言う なんだか、気持ちが悪い それでも、あと、死ぬのって 優雅、うちの夫だけだ だいたい、10万円くらいで 三人で10万円なのだから 一人頭3万3千円?! それでその、大事な情報を売るやつも売るやつだが だいたい、支店長である信也と孝也の父親が一番情けない気はする ... 続きをみる
どういうこと? 舞さんまでも殺した犯人 いったい誰なのか? 優雅としゃべるのもうんざりだが 「あれから、誰も事故にあわないね」 すると、少し笑った こいつは嘘つくときこんな笑い方をする 「もう、誰も死なないんじゃないかな」 その言い方は自信に満ちている そして、いやな予感がした 「どうして?」 少... 続きをみる
帰りの新幹線の中 少し笑ってしまうほど馬鹿な二人組だった いや、情報を売った三人組だって ディズニー映画の悪レベルだ そんなバカバカしいことに加担した夫 全くうんざりする人だ でも・・・・ じゃ、いったい誰が次々と人を殺してるの? 単なる偶然の事故? 関係者を一人一人思い浮かべてみる 肝心の強盗犯... 続きをみる
彼らが人殺しじゃないことを確信すると 腹を決めた 「あなたたち、銀行がお金を運ぶ日にちとか時間 それにルートってどうやって知ったの?」 兼のほうがぎょっとしたように 私を見たが ふみちゃんの兄ちゃんのほうは 自慢気に 「それは、あの三人組さぁ 最初、人のよさそうな支店長と愛人の人? あの人に聞きた... 続きをみる
これはやっぱり、殺してなんかいない 「あの人、自殺したの?」 「支店長のこと愛してたんじゃない? 支店長が自殺した後、しばらくしてね」 こういう輩は愛だの、恋だのには飛びついてくる 理解しやすいから 私はかなり下の階層の人間に対しては だいたい恋愛話で仲良くなることにしている 驚いたことに、二人は... 続きをみる
「いたけど、何?」 兼のほうが前に出てきた 「何か警察にでもチクろうってわけ」 私は子供をたくさん見てきた 五歳くらいで子供の人間性は固まる だから、それ以上の大人であったとしても 五歳の子供と変わらない そして、彼らは五歳の子供に見立てたら 相当頭が悪い部類の子供だ でも、田舎者だからっていうわ... 続きをみる
今までのことから考えると 彼らが銀行強盗に成功して それまでの証拠隠しに銀行の様子を教えてもらった あの、三人組のなかの吉永敬次と市田陽を消した そしてそれに気が付いた支店長の愛人だった舞さんも手にかけた?! この岡山から人を殺しに行ったのだろうか? 何を聞こうか、何を話そうか、もしこの男が そん... 続きをみる
農協を出ると橋を渡る 小さな商店街があって横に抜けると 広い田んぼ その広い田んぼの中にポツンポツンと ビニールハウスがあった 真ん中あたりには牛を飼ってる小さな牧場もある 本当に私の田舎と同じだった 田舎から出てきて、何かいいことがあっただろうか? あのまま、田舎にいて親の言うとおりの結婚をして... 続きをみる
嘘みたいにすぐに分かった でも、田舎ってこういうものだ 「ふみちゃんの兄ちゃんと友達の兼とかいう人が トマト農家失敗して東京行って金貯めて 今度はキュウリ農家やるって張り切ってますよ それじゃないですかねぇ」 それに違いない でも、東京に出てから次にキュウリ農家をやれるまで 期間が短すぎない? 周... 続きをみる
私は岡山のその町に行ってみることにした 雲をつかむような話かもしれない そう思ったけれど田舎生まれの私には その町の規模を調べて、そうでもないと思えた 自分がその程度の町の近くの村の出身で たぶん、「トマト農家に失敗した30代くらいの人間」 そういえば、すぐに噂になっていて わかるはずだと思ったか... 続きをみる
「田舎から出てきて トマト農園に失敗したって二人組?」 「いや、あいつらそんな悪には見えなかったし だいたい、銀行強盗の犯人かもわからんやろ 利ちゃん、それ、警察に言うべきだろ」 すると、おばちゃんの一人が 「ないない!だって、あの二人 岡山県岩下町から来たって はっきり言ってたよ そんな悪どもが... 続きをみる
私は利さんのそばに行くと 「その田舎者って?」 唐揚げをおごると、ちょっと、嬉しそうに 「二人組さ! 30くらいの二人組で 田舎でトマト栽培に失敗したから 東京で何としても一旗揚げないと帰れない そんなこと言ってたかなぁ 俺はあいつらが犯人だと思ってる あの三人組はあいつらに情報を流したんだと思う... 続きをみる
そんな話で盛り上がってると 隅で飲んでた暗そうなおっさんが 「今じゃ証拠はねぇけどさ おりゃ、あいつら情報を売ったんじゃねぇかって 思ってるんだ ほんの少しの飲み代欲しさにさ ほら、あの事件の前にここに入り浸ってた 田舎者の変な奴らいただろ あいつら何とか支店長に取り入ろうとしてたけど 無理だった... 続きをみる
それでも、その程度なら恨まれるってことはないだろう そう思ったが舞さんのメモに 情報を打った?! そう書かれていた どういうことだろう? 『父ちゃん』通い、慣れたころに話を聞く 「ここって銀行強盗の時に お客さんがアリバイとか調べられたんですって?」 そんな風に振ってみると 常連のおっちゃんが 「... 続きをみる
「いい人には違いないけど なんかわきが甘いっていうか 現金強盗に合う前から ちょっと、心配はしてたのよ だって、銀行での社内秘っていうの そういうのもなんか軽くしゃべるようなとこもあってね だって、あの頃 よく彼女と飲みに行っていた飲み屋 『父ちゃん』って言うんだけど 私も常連でね あそこで知り合... 続きをみる
この辺りは昔ながらの店も多いし 銀行強盗の話はみんな知っていた 小さな豆腐屋に入って聞いてみると 「ああ、あれねぇ 犯人、結局つかまってないんだよねぇ 可愛そうだったのはあの支店長だったね」 「そうなんですか? でも、支店長のせいだなんてことはないでしょう」 「ああ、それがさ現金の運ばれる時間とか... 続きをみる
ああ、ここの居酒屋で三人と敦也さん そして舞さんは顔見知りになっている 敦也さんはこの時に銀行強盗に会っていて その責任を取って会社を辞め そのまま自殺に追い込まれている え! この銀行強盗にまさか、この三人がかかわっている? いやいやいや! うちの夫はバカでもあるが臆病でもある そんなことにかか... 続きをみる
私は家にいるときはだいたい自分の部屋にこもっている 六畳の小さな部屋だが、それで十分だ 娘が置いていった勉強机にメモを広げて いったいどんなことが起きていたのかを読んでいく 驚いたことにこの事件のきっかけは 夫が長い単身赴任から帰ってくる前 最後の赴任先は高尾のほうの小さなスーパー そのころから始... 続きをみる
「それで、その、えっと あの夫婦の亡くなった原因とかを調べているうちに その三人にたどり着いて で、真実かどうかはわかりませんが あなたの夫のこともかなり辛辣に書いています でも、もしかしたら命を狙われているかもしれないから やはりお知らせしたほうがいいかもしれないと思いまして」 私は命を狙われる... 続きをみる
「あの、姉が残したメモとか資料とかがあって もしかしたらって与那嶺さんに確かめたんです でも、もう一度ご本人に確認したほうがいいかもしれない そう思って」 そう言いながらメモとはいえ膨大な資料をテーブルに出すと パラパラとめくりながら 「あ、あった! この名前なんですけど もしかしてご主人じゃない... 続きをみる
祐樹のことは私が送っていくことになった 「すみません、一人でも帰れるんですが ちょっと、気になることがあって 良かったらうちの家まで来てもらえますか」 姉がいなくなったと言うのに 掃除は行き届いていたし 端々にきちんとしている様子が見えた 「普通に片づけたりするのも大変でしょう 何かあったら言って... 続きをみる
舞さんが亡くなった頃から 夫が楽しそうで落ち着いてきた 私はてっきり次は夫の番に違いないから 夫はおびえて外にも出なくなるんじゃないかと思っていたのに のびのびと前にもまして楽しそうに毎日を送っている 別に何でもなかったのかしら 全く関係なかった? 残念なような・・・・ 私は自分の思い過ごしで す... 続きをみる
そう聞きながら 自分でも馬鹿だと思った 自殺するならもっと、まともな場所でするだろう 地下鉄の下りる階段から飛び降りたりしない そう気が付いた私を見ながら 「舞さんは確かに、あの子たちの父親が亡くなった時に 一緒に死にたいとは言ってたけれど 弟さんがいるでしょ 弟さんのことは舞さんの幸せの妨げにな... 続きをみる
すごく優しくて不幸な人 与那嶺さんが二人の兄弟を引き取ってから 舞さんに何度も会っているうちに もしかしたら、舞さんは 二人の父親を愛していたあまりに 後を追って死ぬのではないかと恐れていたらしい 「あの二人の父親はまじめで優しい人だったけれど 弱い人だったんでしょうね 舞さんもあまりに大変な人生... 続きをみる
兄弟も落ち込んでいたが 与那嶺さんの家で一緒にお茶を飲んでいるうちに 少しづつ元気になり これからはもっと、長沢さんを訪ねようと 自分たちの部屋に下がっていった 与那嶺さんは二杯目の紅茶を淹れながら 「舞さんがあんなことになるなんて 本当に世の中何があるかわからないわね 私ぐらいの年になると 何が... 続きをみる
長沢祐樹から連絡があった 姉が亡くなったと言うと言う え! 私は何となくだが あの会えなかったお姉さんていうのが 保険の外交員だったような気がしていて 実際、何故なのかはよくわからないが もしかしたら吉永敬次と市田陽を殺したのは 彼女何ではないか?! そう思っていたのに・・・・ 葬式に行くのにあの... 続きをみる
こんな頭の悪い夫と仲がいいくらいなんだから きっとろくでもない人間で ひき逃げされそうな頭の悪い奴 そう思おうとするのだが そうじゃない 偶然じゃない やっぱり夫は命を狙われている? なんだか間違いないような気がする 私はその日、仕事が終わるとすぐにあの居酒屋に行ってみた 「あ、あの幼馴染の陽さん... 続きをみる
「それで? その頭の悪いどうせヤンキーなんでしょ スピードを出しすぎてどこかにぶつかったとか?」 私はわざと市田陽を知らないふりをして、そう聞くと 「いやいや、そんな子じゃない 大人しいし、頭も悪くないし ヤンキーでもないよ」 「だって、若いのにパパと一緒の仕事なんて 頭が悪いに決まってるでしょ」... 続きをみる
夫はもともと営業で それも言われたことしかやらないタイプだし 自分で動くと必ず失敗するほどの人間だったけれど アパレルの営業だったから許せた いつだって服装は完璧だったから スーツだって数十万、ワイシャツ一枚にしろオーダーで作ったり コートになると一枚数十万のものを何枚も持っていた もちろん仕事柄... 続きをみる
私は夫の周りの事故を独自に調べている なんてことを知られたくなかった 陽に関しての話はわからないふりをして 「知り合いなの? どうかした?」 「交通事故で死んだ」 ぽつりと一言 吉永敬次の事故から数か月 また、一人死んだわけだ やはり、何かがあったに違いない 「この間、吉永のおっさんが川でおぼれて... 続きをみる
三人! その三人で何かしたんだろうか? 殺されるようなこと! それでも、積極的に調べようとはならない 三人はごく普通の人間だ やくざやごろつきなんかじゃない、最近出張ってきた 半ぐれとかでもない おっさんの吉永はいいお父さん 若い市田 陽はおとなし気な 同じ世代では友人もできない人間で うちの夫で... 続きをみる
彼が良くいく居酒屋で話を聞いた 店主はまだ若そうだ 「ああ、敬次さんねぇ いい人だし、酒さえ飲まなきゃ楽しいおっさんだな ここに来始めてからはに三年なるかなぁ 陽が連れてきたんだ 職場が一緒になったって 何でも、三人でチームを組んで土方やるんだろ 陽は調子はいいけど友達作るのが下手でさ 俺とは幼馴... 続きをみる
「どんな人だったか見たことあります?」 「ああ、あるよ! 最後に来たのが旦那のお葬式だったからね」 「え!どんな人でした?」 まさか見たことあるとは 「髪の毛を後ろで束ねていて ちらっとしか見なかったけれど 喪服は上等なしろもんだったよ」 「女の人?」 「ああ、保険の外交員って言ったらおばちゃんじ... 続きをみる
そこら辺の知り合い程度の人間が 事件に巻き込まれて殺されるって聞いたほうが よほど正義感を刺激されてもっと、積極的に動くだろう 私の躊躇はそんな、いいのか悪いのか 夫を嫌っているせいだと自分ではわかっていた 結婚というシステムは お互いがよほど人間として立派でなければ幸せにはならない 私くらいの年... 続きをみる
私はこのまま調べていくと 夫も殺されるようなことになるのではないか そんな予感は十分持っていたし 足の悪い長沢祐樹が感じのいい人だから 事件性はないと勝手に思い込もうとしている 夫が殺されたら困る それは困る 何かと騒がれたり事件の渦中に放り込まれたり 金銭的にもやっていけなくなる それ以外には何... 続きをみる
誰もが事故で間違いないと言う 「保険って?」 「ああ、別に何でもないよ 貧乏人のひがみさ あの事故より前にたまたま来た保険の外交員さんが とにかく押の強い人で 結構な額の保険に入らされたらしいよ それがよかったんだけどね 愛ちゃんも奥さんだって そのおかげでこれからは、旦那が生きていたころより 幸... 続きをみる
長沢の姉と連絡が取れない がしかし長沢祐樹は 「すみません 姉はうっかりやでスマホを落としたり どこかに置きっぱなしにしたりするんで 今回もきっとそんなことだと思います 連絡が取れましたらすぐに姉から連絡するように申します」 そんなふうに何の屈託もなさそうに言ってくれた 私は人が死んでいることが気... 続きをみる
「あの、信也君がやっていたバイトですけど 長沢さんの紹介だそうで 急に辞めても大丈夫だったんですか?」 彼は私の苗字を見ても何も反応しなかったから 夫を見張るバイトの内容を知らないんじゃないか それに、この生活 清廉潔白だし悪い人には見えない そう思って聞いてみると、案の定 「ああ、そうなんです ... 続きをみる
炬燵に座って、紙コップに 横にキレイに置いてあるウーロン茶のペットボトルから お茶を入れてくれた 炬燵の上は奇麗に片付いていて何もなく そのペットボトルの横に小さなタッパーがあり そこにお菓子や食べ物が入っているようだった 普段、家での生活はいざって回れば大丈夫なんだと笑った 私はすぐにクッキーを... 続きをみる
足立区の小さな一軒家 古い! いや、ぼろい! 確かにこれではあの兄弟を助けることはできなかっただろう そう思いながらベルを押した このベルもなるかどうか心配なレベルだったが ブーとしっかり鳴った しばらく待つと中から低い男の声 「どなたですか?」 低いけれど、優しそうな声だった 「あの、森本君たち... 続きをみる
そのうち二人が帰ってきた 二人はテーブルの上の紅茶よりも 与那嶺さん手作りのクッキーを 嬉しそうに食べている ずいぶんたくさん焼いたものだと思っていたら 彼らのおやつだったのだ あの、池袋で会った兄弟とは思えないほど 幸せそうだ 「そういえば、あの頃やってたバイト 誰からのお世話だったの?」 「お... 続きをみる
もっと、詳しい話が聞きたくて 私は久しぶりに信也たちを預けた与那嶺さんの所に行ってみた 昭和の初期に建てられたような古風な家だ 与那嶺さんのご両親は大正生まれで この家は新婚の時に与那嶺さんの父親が 結構な財産を相続して建てたらしい 与那嶺さんはこの家で蝶よ花よと育てられ あまりにも純粋すぎて結婚... 続きをみる
一人死んでいる 事故? 私はすぐにその事故を調べ始めた 夫とは口も利かないほど疎遠にはなっていたけれど さりげなく聞いてみる 「だれか仕事仲間が亡くなったの?」 日ごろほとんどしゃべらない私の質問に驚いたように 「ああ、敬さんがね 前から酒のみだったけれど 二週間ぐらい前に酒飲んで川に落ちたらしい... 続きをみる
母親が教育熱心で信也はもちろん 孝也も小学五年にしてはかなり先取り教育をしていた 二人と話していると、これはもったいない そう思わされることが多々ある 私は知り合いがやっているNPO法人 何とか援助してくれる金満家 色々調べてみた 二人で生活しながら学校に行く それもできないことはない 独身女性の... 続きをみる
その時になっても実際に夫が命を狙われているなんて 信じてはいなかった もちろん、数度の奇禍はあったが 夫、優雅という人はいかにもそういう人なのだ 一番大事なのは家族より自分自身 それはそれで、生まれつきそういう人なんだから仕方がない それに対して何か思うことにはとっくにあきらめていたが やることな... 続きをみる
『おじいさん』 興味もないし、まったく嫌な奴なのだが 夫がそう呼ばれるのはショックでもあった でも、よく考えれば、私も60だし 彼らから見れば、立派なおじいさんおばあさんなのだろう それに孝也は尾行しているおじいさんの妻が私とは知らないのだ そういわれると、夫のような年寄りが尾行されたり なぜ命を... 続きをみる
「親がある夜、二人ともいなくなって 次の日の夕方、二人の遺体が北海道で見つかった それがすべてでした どうしてそうなったのか全く分からなかったんですが どうやらすごい借金があったようで 自殺でした とにかくわかったのは、自分たちにはお金がないってことだけです」 それは過酷な経験をしたものだ だれか... 続きをみる
森本信也 それがその男の子の名前で 弟は孝也 驚いたことにラインを交換した次の週 信也から連絡があった 弟の孝也がこの前私がやっていたソシャゲーを ダウンロードしたいから 色々教えてやってくれ 施設ではスマホは持てないが 自分と会っている間はゲームをやらせてあげたいから そんな話だった 私は何とか... 続きをみる
「お兄ちゃんと一緒でいいねぇ」 「久しぶりなんだ いつもは施設にいて、ちっともおもしろくない とにかく大人しくして大人の言うことを聞け!って だから兄ちゃんが遊びに連れってくれるのは 一番の楽しみ おばさん、ゲーム好きにできていいなぁ 施設だと時間は短いし やりたいゲームは順番だし 早く兄ちゃんと... 続きをみる
小学生くらいの男の子 私は職業柄、そういう年齢の子は扱いなれている 翔が大学を出てから30代に入った頃、会社を興した その中に教育部門っていうところがあって 私はそこで家庭教師をしていたから 小学4年から6年くらいはお手の物だ 見かけた様子だけでも多分五年生だ そのくらいの男の子が好きなゲームはす... 続きをみる
私は夫に、その男の子のことは話していなかった SNSで彼らしき人を見つけた時も 何も言わなかった 今もその写真をスマホで見せて 「この、男の子、知ってる?」 そう聞いてみる 理由は言わない 「いや、知らないけど その人が何?」 本当に全く知らないようだった 私は彼に直接あたってみようか?! なんで... 続きをみる
夫がひき逃げにあった日から二週間 いや、もしかしたらひき逃げではないかもしれないが 毎日、見張ることはできない 仕事もあるし、私は夫の安全なんかどうでもよかった ただの好奇心と言えば、そうなのかもしれない 世の中は結婚について本当のことは語らない 嫌なら離婚すればよくて、離婚しない嫌な人のことは ... 続きをみる
顔はボケているが、その服装は 緩いパンツに白いラインが入っているところ 上のパーカーの色と大きさ そして、紺のニット帽 間違いなく彼だ 彼がここに写りこんでいる ハッとした 夫は今回は誰かに押されたなんて言ってはいなかった もう一度、念を押してみる 「ねぇ、誰かに押されたなんてことはなかった? 前... 続きをみる
その子を見かけてから、もう一度夫はけがをした 車に引かれそうになったのだ 怪我自体はいつものように大したことはなかったけれど 今回はひき逃げではないかと警察も調べてくれた 彼がひかれそうになった車は、真っ黒なハイエース 目撃者も何人かいて その車がものすごいスピードで逃げて行ったと言った 私も、本... 続きをみる
興味がないと言っても結婚したのは恋でもあった でも、よく言われているように三年もすれば そんな気持ちも消えてしまっていた 恋というような浮足立った気持ちがなくなれば ああ、彼は偏差値40くらいの人なのか これは営業職でネクタイを締めてっていうのは 多分彼にとってものすごく大変なのだ 子供たちが小さ... 続きをみる
外を一緒に歩くこともなくなった夫 その日曜日はたまたま買い物帰りの私と 前を歩く優雅の時間が重なった あ、優雅だ いやだなぁ、出来るだけ会いたくない 帰るの少し時間をずらそうかな そう思って、家の近くのコーヒーショップに入ろうと思うと その時に優雅をつけているような若い男がいるのに気が付いた つけ... 続きをみる
怪我は擦り傷程度 でも、また、誰かに押された そんなことを言っている バカバカしい 誰かが後ろから押したくなるような顔でもしてたんだろう その時になっても私は信じなかった それからも喋れば人をイライラさせるから ほとんど口も利かないで数か月が過ぎた 口を利かないと、夫との生活はほとんど接点がない ... 続きをみる
誰かを殺さなければ自分の目的が達せられない そんな人間はクズだし 頭の悪い奴だ 昔からそう思っていた 推理小説のどんな素晴らしいトリックを読んでも バカバカしいとしか思えなかった それが誰かのためでも どんなに大事な人を殺されたとしても 人を殺すのは極めて頭の悪い所業だ 私はそう思っている 夫、優... 続きをみる
「バスタオルって乾くのに二、三日かかるよね」 確かにほかの家ではそうかもしれない でも、うちでは絶対にないことで 毎日、夜使ったバスタオルは次の日の朝には乾いているし 天気が悪かったとしても 次の日の昼には奇麗にたたまれて バスタオル置き場に並んでいる その事実の前に、そんなことを言う 一事が万事... 続きをみる
それから30年間 夫の性格とか夫が持って帰るお金とか 全く興味がなかった 翔の下に夫との子供が二人 朱雀と環奈 末娘の環奈が大学を卒業するまで 子育てに夢中で夫が一体どんな人であるか 全く知らなかったと言ってもいいかもしれない その30年の間の17,8年は単身赴任で 一年に一度会うか会わない、そん... 続きをみる
私と翔は切羽詰まっていた 前の夫のDVから逃げるために 私は東京の地下に潜っていた お金もないし住む場所もない 住み込みの寮のある風俗で働いていた 何とかここから脱出しなければ それでも再婚相手は慎重に選んだつもりだった お金があるだけなら結構いたが 歳をとりすぎていたり 見た目が悪かったり 何よ... 続きをみる
若い、と言っても30はとっくに過ぎているが その彼女が頼んだハーブティーを飲むこともなく ほとんど怒りに任せて夫の浮気を私にぶちまける よく聞く話だ 職場の入ったばかりの新人 23歳で若くて尻軽女 夫の浮気は初めてではなくてこれで二度目 それでも別れたくはない 彼のことが好きでたまらない そりゃ、... 続きをみる