結婚
「田舎から出てきて トマト農園に失敗したって二人組?」 「いや、あいつらそんな悪には見えなかったし だいたい、銀行強盗の犯人かもわからんやろ 利ちゃん、それ、警察に言うべきだろ」 すると、おばちゃんの一人が 「ないない!だって、あの二人 岡山県岩下町から来たって はっきり言ってたよ そんな悪どもが... 続きをみる
私は利さんのそばに行くと 「その田舎者って?」 唐揚げをおごると、ちょっと、嬉しそうに 「二人組さ! 30くらいの二人組で 田舎でトマト栽培に失敗したから 東京で何としても一旗揚げないと帰れない そんなこと言ってたかなぁ 俺はあいつらが犯人だと思ってる あの三人組はあいつらに情報を流したんだと思う... 続きをみる
そんな話で盛り上がってると 隅で飲んでた暗そうなおっさんが 「今じゃ証拠はねぇけどさ おりゃ、あいつら情報を売ったんじゃねぇかって 思ってるんだ ほんの少しの飲み代欲しさにさ ほら、あの事件の前にここに入り浸ってた 田舎者の変な奴らいただろ あいつら何とか支店長に取り入ろうとしてたけど 無理だった... 続きをみる
それでも、その程度なら恨まれるってことはないだろう そう思ったが舞さんのメモに 情報を打った?! そう書かれていた どういうことだろう? 『父ちゃん』通い、慣れたころに話を聞く 「ここって銀行強盗の時に お客さんがアリバイとか調べられたんですって?」 そんな風に振ってみると 常連のおっちゃんが 「... 続きをみる
「いい人には違いないけど なんかわきが甘いっていうか 現金強盗に合う前から ちょっと、心配はしてたのよ だって、銀行での社内秘っていうの そういうのもなんか軽くしゃべるようなとこもあってね だって、あの頃 よく彼女と飲みに行っていた飲み屋 『父ちゃん』って言うんだけど 私も常連でね あそこで知り合... 続きをみる
この辺りは昔ながらの店も多いし 銀行強盗の話はみんな知っていた 小さな豆腐屋に入って聞いてみると 「ああ、あれねぇ 犯人、結局つかまってないんだよねぇ 可愛そうだったのはあの支店長だったね」 「そうなんですか? でも、支店長のせいだなんてことはないでしょう」 「ああ、それがさ現金の運ばれる時間とか... 続きをみる
ああ、ここの居酒屋で三人と敦也さん そして舞さんは顔見知りになっている 敦也さんはこの時に銀行強盗に会っていて その責任を取って会社を辞め そのまま自殺に追い込まれている え! この銀行強盗にまさか、この三人がかかわっている? いやいやいや! うちの夫はバカでもあるが臆病でもある そんなことにかか... 続きをみる
私は家にいるときはだいたい自分の部屋にこもっている 六畳の小さな部屋だが、それで十分だ 娘が置いていった勉強机にメモを広げて いったいどんなことが起きていたのかを読んでいく 驚いたことにこの事件のきっかけは 夫が長い単身赴任から帰ってくる前 最後の赴任先は高尾のほうの小さなスーパー そのころから始... 続きをみる
「それで、その、えっと あの夫婦の亡くなった原因とかを調べているうちに その三人にたどり着いて で、真実かどうかはわかりませんが あなたの夫のこともかなり辛辣に書いています でも、もしかしたら命を狙われているかもしれないから やはりお知らせしたほうがいいかもしれないと思いまして」 私は命を狙われる... 続きをみる
「あの、姉が残したメモとか資料とかがあって もしかしたらって与那嶺さんに確かめたんです でも、もう一度ご本人に確認したほうがいいかもしれない そう思って」 そう言いながらメモとはいえ膨大な資料をテーブルに出すと パラパラとめくりながら 「あ、あった! この名前なんですけど もしかしてご主人じゃない... 続きをみる
祐樹のことは私が送っていくことになった 「すみません、一人でも帰れるんですが ちょっと、気になることがあって 良かったらうちの家まで来てもらえますか」 姉がいなくなったと言うのに 掃除は行き届いていたし 端々にきちんとしている様子が見えた 「普通に片づけたりするのも大変でしょう 何かあったら言って... 続きをみる
舞さんが亡くなった頃から 夫が楽しそうで落ち着いてきた 私はてっきり次は夫の番に違いないから 夫はおびえて外にも出なくなるんじゃないかと思っていたのに のびのびと前にもまして楽しそうに毎日を送っている 別に何でもなかったのかしら 全く関係なかった? 残念なような・・・・ 私は自分の思い過ごしで す... 続きをみる
そう聞きながら 自分でも馬鹿だと思った 自殺するならもっと、まともな場所でするだろう 地下鉄の下りる階段から飛び降りたりしない そう気が付いた私を見ながら 「舞さんは確かに、あの子たちの父親が亡くなった時に 一緒に死にたいとは言ってたけれど 弟さんがいるでしょ 弟さんのことは舞さんの幸せの妨げにな... 続きをみる
すごく優しくて不幸な人 与那嶺さんが二人の兄弟を引き取ってから 舞さんに何度も会っているうちに もしかしたら、舞さんは 二人の父親を愛していたあまりに 後を追って死ぬのではないかと恐れていたらしい 「あの二人の父親はまじめで優しい人だったけれど 弱い人だったんでしょうね 舞さんもあまりに大変な人生... 続きをみる
兄弟も落ち込んでいたが 与那嶺さんの家で一緒にお茶を飲んでいるうちに 少しづつ元気になり これからはもっと、長沢さんを訪ねようと 自分たちの部屋に下がっていった 与那嶺さんは二杯目の紅茶を淹れながら 「舞さんがあんなことになるなんて 本当に世の中何があるかわからないわね 私ぐらいの年になると 何が... 続きをみる
長沢祐樹から連絡があった 姉が亡くなったと言うと言う え! 私は何となくだが あの会えなかったお姉さんていうのが 保険の外交員だったような気がしていて 実際、何故なのかはよくわからないが もしかしたら吉永敬次と市田陽を殺したのは 彼女何ではないか?! そう思っていたのに・・・・ 葬式に行くのにあの... 続きをみる
こんな頭の悪い夫と仲がいいくらいなんだから きっとろくでもない人間で ひき逃げされそうな頭の悪い奴 そう思おうとするのだが そうじゃない 偶然じゃない やっぱり夫は命を狙われている? なんだか間違いないような気がする 私はその日、仕事が終わるとすぐにあの居酒屋に行ってみた 「あ、あの幼馴染の陽さん... 続きをみる
「それで? その頭の悪いどうせヤンキーなんでしょ スピードを出しすぎてどこかにぶつかったとか?」 私はわざと市田陽を知らないふりをして、そう聞くと 「いやいや、そんな子じゃない 大人しいし、頭も悪くないし ヤンキーでもないよ」 「だって、若いのにパパと一緒の仕事なんて 頭が悪いに決まってるでしょ」... 続きをみる
夫はもともと営業で それも言われたことしかやらないタイプだし 自分で動くと必ず失敗するほどの人間だったけれど アパレルの営業だったから許せた いつだって服装は完璧だったから スーツだって数十万、ワイシャツ一枚にしろオーダーで作ったり コートになると一枚数十万のものを何枚も持っていた もちろん仕事柄... 続きをみる
私は夫の周りの事故を独自に調べている なんてことを知られたくなかった 陽に関しての話はわからないふりをして 「知り合いなの? どうかした?」 「交通事故で死んだ」 ぽつりと一言 吉永敬次の事故から数か月 また、一人死んだわけだ やはり、何かがあったに違いない 「この間、吉永のおっさんが川でおぼれて... 続きをみる
三人! その三人で何かしたんだろうか? 殺されるようなこと! それでも、積極的に調べようとはならない 三人はごく普通の人間だ やくざやごろつきなんかじゃない、最近出張ってきた 半ぐれとかでもない おっさんの吉永はいいお父さん 若い市田 陽はおとなし気な 同じ世代では友人もできない人間で うちの夫で... 続きをみる
彼が良くいく居酒屋で話を聞いた 店主はまだ若そうだ 「ああ、敬次さんねぇ いい人だし、酒さえ飲まなきゃ楽しいおっさんだな ここに来始めてからはに三年なるかなぁ 陽が連れてきたんだ 職場が一緒になったって 何でも、三人でチームを組んで土方やるんだろ 陽は調子はいいけど友達作るのが下手でさ 俺とは幼馴... 続きをみる
「どんな人だったか見たことあります?」 「ああ、あるよ! 最後に来たのが旦那のお葬式だったからね」 「え!どんな人でした?」 まさか見たことあるとは 「髪の毛を後ろで束ねていて ちらっとしか見なかったけれど 喪服は上等なしろもんだったよ」 「女の人?」 「ああ、保険の外交員って言ったらおばちゃんじ... 続きをみる
そこら辺の知り合い程度の人間が 事件に巻き込まれて殺されるって聞いたほうが よほど正義感を刺激されてもっと、積極的に動くだろう 私の躊躇はそんな、いいのか悪いのか 夫を嫌っているせいだと自分ではわかっていた 結婚というシステムは お互いがよほど人間として立派でなければ幸せにはならない 私くらいの年... 続きをみる
私はこのまま調べていくと 夫も殺されるようなことになるのではないか そんな予感は十分持っていたし 足の悪い長沢祐樹が感じのいい人だから 事件性はないと勝手に思い込もうとしている 夫が殺されたら困る それは困る 何かと騒がれたり事件の渦中に放り込まれたり 金銭的にもやっていけなくなる それ以外には何... 続きをみる
誰もが事故で間違いないと言う 「保険って?」 「ああ、別に何でもないよ 貧乏人のひがみさ あの事故より前にたまたま来た保険の外交員さんが とにかく押の強い人で 結構な額の保険に入らされたらしいよ それがよかったんだけどね 愛ちゃんも奥さんだって そのおかげでこれからは、旦那が生きていたころより 幸... 続きをみる
長沢の姉と連絡が取れない がしかし長沢祐樹は 「すみません 姉はうっかりやでスマホを落としたり どこかに置きっぱなしにしたりするんで 今回もきっとそんなことだと思います 連絡が取れましたらすぐに姉から連絡するように申します」 そんなふうに何の屈託もなさそうに言ってくれた 私は人が死んでいることが気... 続きをみる
「あの、信也君がやっていたバイトですけど 長沢さんの紹介だそうで 急に辞めても大丈夫だったんですか?」 彼は私の苗字を見ても何も反応しなかったから 夫を見張るバイトの内容を知らないんじゃないか それに、この生活 清廉潔白だし悪い人には見えない そう思って聞いてみると、案の定 「ああ、そうなんです ... 続きをみる