結婚
妄想であったとしても なんだか気味が悪い 私が思っているような頭の悪いずるい人間ではなく もしかしたら完全犯罪だって成し遂げられる 頭のいい人間だったとしても あまりに正体がわからなさ過ぎて 一緒の部屋で今までと同じように暮らしていくことはできない 今まで馬鹿にしていた夫が恐ろしい 私はその足で友... 続きをみる
それに、公安が私をつけているのならば 当然、優雅にも四六時中見張りが付いているはずで もし、優雅がこの一連の殺人を起こしているのならば 絶対、現行犯で捕まるだろう そんな風に話すと与那嶺さんは 「公安は国家の安全のためなら その辺の殺人犯は野放しにするかもしれないわ その辺の殺人犯が五、六人を殺し... 続きをみる
「え!私に?」 驚いている私をよそに与那嶺さんは 落ち着いた様子で 「ええ、たぶん、40くらいに そうね、私に言わせればいかにも公安ですって感じの 女の人だわ 多分、普通の人にはわからないでしょうけれど 私には何となくね・・・ 私についている人も一人じゃなくって 何人も変わっていくけれど わかっち... 続きをみる
「私は今でも見張られているの」 「見張られている?」 「そう、赤軍派の男の女として」 「え?!誰に?」 「公安よ!」 私は全く驚いた 公安なんて小説かドラマの中のことで 実際に日本の警察組織の中に 本当にあるのかも知らなかった それに、もう、20年は与那嶺さんの周りに現れていないのだ 「今でも?」... 続きをみる
「勇気はなかったけれど 公安に十分目をつけられていたの それに、一度道をそれてしまうと 彼は学問には興味を失っていたし 就職は無理だし 親族はそろって結婚には反対するし 彼の家のほうは息子が赤軍派だったってだけで 工場は倒産して一家離散 そういう時代でもあったんだけど ああ、そうかもしれない 『総... 続きをみる
「最初に彼を親に合わせた時に すごく喜ばれたわ 彼は東京大学の理工学部の学生だったし 親は小さいながらも中小企業の社長 さわやかでお坊ちゃんで 私も知り合ったきっかけは 喫茶店で流れていたテンペストだったし 趣味も同じで見た目もさわやかで絶対に二、三年付き合ったら 結婚すべき人だと思っていたし そ... 続きをみる
与那嶺さんは全く違う話を始めた 「私ね最初から一生独身でいようって思ってたわけではないの 今から20年くらい前まで 付き合ってる人がいたのよ」 20年前と言えば与那嶺さんが60くらい? 今の私くらいだろうか 「29歳の時に知り合って 59歳で彼が死ぬまで恋人同士だったの」 「結婚はしなかったんです... 続きをみる
与那嶺さんは濃いミルクティーを淹れてくれた それで、私は少し冷静になれた 「こういうことを言いたかったんですね」 与那嶺さんは甘いチョコレートスフレを私に勧めながら 「これ、ブランデーが入ってるし 十分甘いいのよ ショッキングなことが起きた時は お酒か甘いものがいいの もう少し落ち着くまで待ってる... 続きをみる
もう、仕事に行くどころじゃなかった 体が震えてこのままでは立ってることすらおぼつかない さっきの若い男が 「おばさん大丈夫かよ! どっか具合悪いんじゃねぇの いきなり線路に飛び出そうとするんだもん 俺、行くよ! 病院、行きなよ」 親切ないい子だったのだが 私はお礼も言えなかった あれは夫だった 背... 続きをみる
私は大概の人間のことは知りたい 好奇心旺盛でそれが全く利害関係のない人でも 過去は知っておきたい ただ、夫だけは違う それはどうでもいいと言うのとも違う ただただ、苦々しい 自分の大きな人生の失敗を目の前に突き付けられるように 苦しみだけが残りそうで 彼の過去なんか本当に知りたくない 与那嶺さんの... 続きをみる
もちろん、彼の実家に遊びに行けば 彼の兄弟や義母と話はするが 通り一遍、天気の話がせいぜいで 詳しく彼の生い立ちを聞いたこともなければ いったいどんな人なのかも知らないままだった それでも、私はよかったし 何も思うことはなかった 彼のいいところは子育てに全く口を挟まなかったことだ その頃の私は、そ... 続きをみる
恋が冷めてしまえば 夫になど全く興味がなかった 翔が新しい父親になじむよう 悲しい思いをしないように 新しい環境で、勉強がスムーズにでき 友人と楽しく過ごせるよう そのことに全力を注いでいた すぐに朱雀と環奈が生まれた 専業主婦を望んだわけではないが 翔の教育と10歳下に生まれた年子の朱雀と環奈で... 続きをみる
それは間違いないと言う 彼女が言うのならそうなんだろうけれど それなら、いったい誰が犯人だと言うの? 黙ってしまった私に、与那嶺さんは 「答えは明白だと思うけれど」 「え!?」 「あなた、ご主人の過去を知ってるのかしら?」 少し冷たい声でそう言われた 優雅の過去! いや、まったく知らない 結婚する... 続きをみる
驚いた! その優雅がわからないと言う なんだか、気持ちが悪い それでも、あと、死ぬのって 優雅、うちの夫だけだ だいたい、10万円くらいで 三人で10万円なのだから 一人頭3万3千円?! それでその、大事な情報を売るやつも売るやつだが だいたい、支店長である信也と孝也の父親が一番情けない気はする ... 続きをみる
どういうこと? 舞さんまでも殺した犯人 いったい誰なのか? 優雅としゃべるのもうんざりだが 「あれから、誰も事故にあわないね」 すると、少し笑った こいつは嘘つくときこんな笑い方をする 「もう、誰も死なないんじゃないかな」 その言い方は自信に満ちている そして、いやな予感がした 「どうして?」 少... 続きをみる
帰りの新幹線の中 少し笑ってしまうほど馬鹿な二人組だった いや、情報を売った三人組だって ディズニー映画の悪レベルだ そんなバカバカしいことに加担した夫 全くうんざりする人だ でも・・・・ じゃ、いったい誰が次々と人を殺してるの? 単なる偶然の事故? 関係者を一人一人思い浮かべてみる 肝心の強盗犯... 続きをみる
彼らが人殺しじゃないことを確信すると 腹を決めた 「あなたたち、銀行がお金を運ぶ日にちとか時間 それにルートってどうやって知ったの?」 兼のほうがぎょっとしたように 私を見たが ふみちゃんの兄ちゃんのほうは 自慢気に 「それは、あの三人組さぁ 最初、人のよさそうな支店長と愛人の人? あの人に聞きた... 続きをみる
これはやっぱり、殺してなんかいない 「あの人、自殺したの?」 「支店長のこと愛してたんじゃない? 支店長が自殺した後、しばらくしてね」 こういう輩は愛だの、恋だのには飛びついてくる 理解しやすいから 私はかなり下の階層の人間に対しては だいたい恋愛話で仲良くなることにしている 驚いたことに、二人は... 続きをみる
「いたけど、何?」 兼のほうが前に出てきた 「何か警察にでもチクろうってわけ」 私は子供をたくさん見てきた 五歳くらいで子供の人間性は固まる だから、それ以上の大人であったとしても 五歳の子供と変わらない そして、彼らは五歳の子供に見立てたら 相当頭が悪い部類の子供だ でも、田舎者だからっていうわ... 続きをみる
今までのことから考えると 彼らが銀行強盗に成功して それまでの証拠隠しに銀行の様子を教えてもらった あの、三人組のなかの吉永敬次と市田陽を消した そしてそれに気が付いた支店長の愛人だった舞さんも手にかけた?! この岡山から人を殺しに行ったのだろうか? 何を聞こうか、何を話そうか、もしこの男が そん... 続きをみる
農協を出ると橋を渡る 小さな商店街があって横に抜けると 広い田んぼ その広い田んぼの中にポツンポツンと ビニールハウスがあった 真ん中あたりには牛を飼ってる小さな牧場もある 本当に私の田舎と同じだった 田舎から出てきて、何かいいことがあっただろうか? あのまま、田舎にいて親の言うとおりの結婚をして... 続きをみる
嘘みたいにすぐに分かった でも、田舎ってこういうものだ 「ふみちゃんの兄ちゃんと友達の兼とかいう人が トマト農家失敗して東京行って金貯めて 今度はキュウリ農家やるって張り切ってますよ それじゃないですかねぇ」 それに違いない でも、東京に出てから次にキュウリ農家をやれるまで 期間が短すぎない? 周... 続きをみる
私は岡山のその町に行ってみることにした 雲をつかむような話かもしれない そう思ったけれど田舎生まれの私には その町の規模を調べて、そうでもないと思えた 自分がその程度の町の近くの村の出身で たぶん、「トマト農家に失敗した30代くらいの人間」 そういえば、すぐに噂になっていて わかるはずだと思ったか... 続きをみる