nekoluckのブログ

サスペンス小説

結婚

私は大概の人間のことは知りたい
好奇心旺盛でそれが全く利害関係のない人でも
過去は知っておきたい
ただ、夫だけは違う
それはどうでもいいと言うのとも違う
ただただ、苦々しい
自分の大きな人生の失敗を目の前に突き付けられるように
苦しみだけが残りそうで
彼の過去なんか本当に知りたくない


与那嶺さんの言葉の本当の意味なんて
全くわかっていなかった


最近の彼はお金もないし楽しいこともないのに
やたら明るい
気持ち悪い
とにかく金銭的には離婚は無理なので
遠くに、出来るだけ精神的に遠くにいる
でも、同じ部屋には住んでいるのだ


仕事に行く
バスに乗ってそれからJRに乗り換える
多くの人波の中
私は常に片手に本をもって動く
この大きな波の中
自分の世界だけに浸っていたい
そう思っていた
突然、背中に誰かの強い手を感じた
あ!!!!
横にいた若い人が


「おばさん!危ない!!」


電車が入ってくるその寸前
倒れ込もうとした私の腕を取ってくれた
心臓が止まりそうになる
ハッと振り向く
斜め後ろ、人ごみの中
誰もが電車に倒れ込もうとした私に目が集まっているのに
後ろ向きに逃げようとする人
間違いない優雅だ!

結婚

もちろん、彼の実家に遊びに行けば
彼の兄弟や義母と話はするが
通り一遍、天気の話がせいぜいで
詳しく彼の生い立ちを聞いたこともなければ
いったいどんな人なのかも知らないままだった


それでも、私はよかったし
何も思うことはなかった
彼のいいところは子育てに全く口を挟まなかったことだ
その頃の私は、それは最良の父としての態度だと思っていた
ママ友との話でよく聞くのは
夫の口出しがすごい
何なら、子育ての主導権は夫が握っている
そんな話をよく聞いたし
私が知っている限り、
父親が口うるさく教育に首を突っ込んでいる家の子供は
そんなに出来が良くない
それをしないだけ賢い父親だと思っていたが
長い単身赴任の末に一緒に暮らしてみると
そんな考えなど毛頭ないと言うのがわかった
彼には普通に子供を大学に、いや、高校にやるのに
いくらかかるかとか
塾にやったほうがいいとか
教育の一般常識すら何もなかった
全くわかっていなかったし、調べようとも思っていなかったのだ


あまりの無知に夫婦二人で暮らし始めて
彼のことなど全く知りたくなかった
こんな人を夫に選んだ自分のバカさ加減に
嫌気がさしてもいたのだ

結婚

恋が冷めてしまえば
夫になど全く興味がなかった
翔が新しい父親になじむよう
悲しい思いをしないように
新しい環境で、勉強がスムーズにでき
友人と楽しく過ごせるよう
そのことに全力を注いでいた
すぐに朱雀と環奈が生まれた
専業主婦を望んだわけではないが


翔の教育と10歳下に生まれた年子の朱雀と環奈で
私は子育て以外をする余裕はなかった
保育園に預けるなんて論外だったし
その間、彼がどんな仕事をして
どれだけお金を稼いでいるかも知らなかった
いや、彼がどれだけ働いてお金を手にしているかは
今でも知らない


彼には家族がわからないらしい
そういう概念がないのだ
一緒に何かに向かって頑張るとか
家族として信頼しあうとか全くない
もちろん生活費は入れてくれるのだが
三人の子育てをする間、一律10万円
それも最後のほうは入っては来なかった


この金額で翔に中学受験をさせ
した二人に私立の幼稚園に入れるのは
相当無理がある
常に私は実家からお金を引っ張ってきた
それはそれでどうかと思う
もちろん、私が働けばいいのだろうが
そのことで三人の子育てに手を抜くのは嫌だった