nekoluckのブログ

サスペンス小説

結婚

与那嶺さんは全く違う話を始めた


「私ね最初から一生独身でいようって思ってたわけではないの
今から20年くらい前まで
付き合ってる人がいたのよ」


20年前と言えば与那嶺さんが60くらい?
今の私くらいだろうか


「29歳の時に知り合って
59歳で彼が死ぬまで恋人同士だったの」


「結婚はしなかったんですか?」


「ええ、出来なかったわ
もちろん、親が賛成するような人でもなかったし
彼は一年も私に会いに来ないこともあったから」


いったい何が言いたいんだろう
もちろん、与那嶺さんにもそんな思い出はあるだろうし
今じゃなければ是非聞いてみたいことだけど


「あなたの年なら小学校の頃の
連合赤軍とか浅間山荘事件は覚えているでしょう?」


それはもちろんだ!
田舎の小さな村の小学生だった私にも
あれは衝撃的な事件で
テレビでずっと放映されていた
頭の悪くて単純な母親は


「大学まで行ってこんな大変なことをしでかして
あんたたちは東京の大学なんか
絶対に言っちゃいかんよ」


そんなことを言っていた
実際、それがもとで私は大学に行くときに
ひと悶着起こるのだが
それはまた、それで時代だったとしか言いようがない


「私の好きだった人はあの連合赤軍の仲間だったの」

結婚

与那嶺さんは濃いミルクティーを淹れてくれた
それで、私は少し冷静になれた


「こういうことを言いたかったんですね」


与那嶺さんは甘いチョコレートスフレを私に勧めながら


「これ、ブランデーが入ってるし
十分甘いいのよ
ショッキングなことが起きた時は
お酒か甘いものがいいの
もう少し落ち着くまで待ってるから
ゆっくり食べて」


私は食べながらも
落ち着くどころか、まったく信じられない思いだった


「だって、あの子たちの両親が
自殺したことに始まって
その後の吉永敬次でしょ
それから市田陽
その二人が見事に事故死したのに
あなたの旦那さん、優雅は何度も助かってる
どう、考えてもおかしいわ
そんなに機敏で死をいつも回避できるような
注意深い人じゃないんでしょう」


「そうですけど
人殺しができるような
頭のいい人でもないですよ」


私は知らぬ間に優雅をかばっている

結婚

もう、仕事に行くどころじゃなかった
体が震えてこのままでは立ってることすらおぼつかない
さっきの若い男が


「おばさん大丈夫かよ!
どっか具合悪いんじゃねぇの
いきなり線路に飛び出そうとするんだもん
俺、行くよ!
病院、行きなよ」


親切ないい子だったのだが
私はお礼も言えなかった
あれは夫だった
背中にしっかりと人の手を感じた
強い衝撃!
彼がいなかったら私は電車に飛び込んでいた


え、あの、優雅?!
与那嶺さんはこのことを言いたかったの?
いやそんなはずは
そんなはずはないと言い切れない
今まで調べて次々と殺していく人間は
やはり夫しか考えられない


でも、どうして?
それに、どうして私を殺さなきゃいけないの?
あ!200万円
え?でも、そのくらいのお金のために?


彼はそんな恐ろしい人間だったの?
直接聞いてみる?!
いや、信じられない
私は会社に休む連絡を入れると
与那嶺さんの所に行った